Club Culture is Dead
今日は、グラミー賞について、私見(妄想)を交えてお話します。物語として、読んでいただけたら。
さて、先日のグラミー賞では、
Ed Sheeranの『Shape of You』が、ベストポップソロパフォーマンスに選ばれました。
この『Shape of You』
歌い出しが
The club isn't the best place to find a lover
クラブは恋人を見つけるのにベストな場所じゃない
なんと。イギリス人のEd Sheeranが「クラブにはもう愛がない」ということを歌っているのです。
この曲がグラミー賞をとったということが、なんともタイムリーであり、また、政治的でもあります。
映画『キングスマン』でも、「クラブやフェスが、いまや、イケすかない金持ちたちが、Instagramをアップしたり、ドラッグをやったりする、ダサい場所だ」ということと、「合法化(legalizing)とは何か」が大きなテーマになっていましたが、またしても、イギリスから生まれた、クラブを批判する曲が、世界的なムーブメントとなったのです。
イギリスは、クラブカルチャーを先導してきた国でしたが、そのイギリスから、こうした声が、どんどんあがっていることが、大変面白いと思います。
クラブカルチャーというのは、ディスコが末期を迎える中で誕生したカルチャーで、イギリスでは、セカンドサマーオブラブなどの大きなムーブメントもあり、国策にもなっていました。
そのクラブが、なぜ、今、批判の対象になっているのでしょうか。
大きな理由として、インターネットやSNSにより、クラブがコアなストリートカルチャーの現場ではなくなり、お金さえあれば誰でも参加できるような、単なる金稼ぎのための観光産業となってしまったことが挙げられます。
クラブというのは、そもそも、地域に密着したもので、DJとスタッフと客がみんなで協力してパーティをつくりあげるような、自治精神に基づいた場所でした。ところが、昨今は、どこからでも、インターネットで情報をゲットし、参加でき、どこでも同じEDMやミニマルテクノがかかっているような、ディズニーランドやファーストフード店のような場所になってしまいました。
私が、ちょっとこれはさすがにマズい状況だな、と思ったのは、2015年のこと。イビサのウシュアイアホテルのイベントで、明らかに何らかのドラッグを過剰に摂取している様子で、ひとりでピョンピョン飛び跳ねまくってる人がいたのですが、目があって、ベラベラと彼が話してきた内容によると、彼はアメリカ人で、普段はずっと家でデイトレードや株をしているとのことで、当たって、お金がいっぱい入ってきたから、アメリカからイビサにきて、今こうしている、ということでした。彼は、係員につまみ出されたのか、力尽きたのか、気づいたらいなくなっていました。
こういう状況だったので、いつ、死者が出てもおかしくない状態でした。実際に、ウシュアイアでは、その日のイベントで、何人かが、白目をむいて倒れて、救急隊に運ばれていきました。
2016年には、Mike Posnerによる『I took a pill in Ibiza』がイギリスで大流行。2015年より更に酷い状況となり、イビサのいくつかのクラブが閉鎖に追い込まれ、これ以上オープンエアのクラブを作ってはいけないという条例もイビサのサンアントニオにできました。この流れは、イギリスでも連動しており、イギリスでは、fabricでMDMAの過剰摂取による死者が出て、fabricが閉鎖する事態となりました。
そして、2017年、2018年と、クラブカルチャーは、どんどんダメになる一方。かつてクラブを愛していた人たちまでもが、クラブへのヘイトを口にするようになりました。Save Night Lifeと大きな声をあげる人々も、話の内容は、「これだけ巨大な産業なのだから」ということばかり。かつての、自治意識に溢れたクラブとは全く別物になってしまっていて、単なる金稼ぎ、ツーリズム、Instagramにクールな(笑)写真をあげるためのものに、成り下がってしまったことが、どんどん、明るみになっています。
そして、今回の、Ed Sheeranの『Shape of You』のグラミー賞受賞、『キングスマン』の世界的大ヒット。
Club Culture is Dead
そんな言葉が脳裏をよぎります。
でも、大丈夫。クラブカルチャーが終わっても、音楽や、パーティが終わるわけではありません。ディスコがイケてない場所になって、クラブカルチャーが出てきたように、もう、既に、新しい何かが、芽を出そうとしているようにも思います。
クラシック界における、クラブミュージックの演奏も、そのひとつでしょう。かつてのクラブラバーズたちは、Derrick MayとFrancesco Tristanoによる『Strings of Life』のオーケストラ演奏の会場のほうがずっと本物のクラブのようだ、と言っていたり、いなかったり。
イビサでも、プライベートなパーティや、伝統ある自然の中の会場での生演奏などが、盛り上がってきています。
By for now,